最初のスーツの生地をもう一度
6年のおつきあいになる
お客様が昨日お越しくださいました
最初に仕立てたスーツの生地が今も忘れられない
その生地でタキシードをつくりたい
そんなご相談から今回の話は始まりました
初めて仕立てる一着は
寸法や形だけを決めるものではありません
生地を選んだ時間
鏡の前で確認した姿
完成した日に袖を通した感覚
一着にまつわる記憶は
思っている以上に
長く残るものだと感じます
6年が経っても
思い出していただける生地があることは
つくり手にとってとても嬉しいことです
ただ当時と同じ生地を
使いたいという気持ちがあっても
生地の状況は時間とともに変わります
昨日はその現状を確認しながら
タキシードとして形にするために
何を大切にするかをじっくりお話ししました
最初のスーツにあった魅力を
そのままなぞるのではなく
これから着るタキシードに
ふさわしい一着へつなげていくこと
そこに今回の面白さがあります
同じ生地という言葉の中には
色が好きだったという気持ちだけではなく
光の当たり方や手触り
着たときの安心感まで
含まれているのかもしれません
だから昨日は
タキシードにしたい理由だけでなく
最初のスーツの
どんなところが心に残っているのかも伺いました
その答えを急いで形にするのではなく
今の生地の状況と照らし合わせながら
どこを受け継ぎ
どこを新しくするのかを
考える時間が必要です
オーダーは生地見本の中から
一つを選んで終わるものではありません
目の前にある生地と
その方が覚えている生地の印象
そしてこれから迎える日の目的を重ねて
一着の方向を決めていきます
そのため最初のご相談では
まだ答えを一つに決めなくても構いません
忘れられない理由を言葉にしていくことで
必要な生地や
仕立ての方向が少しずつ見えてきます
タキシードは特別な日のための服です
だからこそ素材の印象だけでなく
どんな場面で着るのか
どんな時間を過ごしたいのか
その一着に何を託したいのかまで
考えたいと思っています
以前つくった服の中に
なぜか手放せない
記憶がある方もいらっしゃるはずです
生地の色や質感
着たときの気分
そのときに会った人や訪れた場所
服は着なくなった後も
記憶の入口として残り続けます
だからこそ昔の一着について話すことは
懐かしむためだけの時間ではありません
次につくる服を
より自分らしいものにするための
具体的な手がかりになります
過去の一着をきっかけに
次の一着を考えることは
決して後ろ向きなことではありません
その記憶を今の自分に
どうつなげるかを考えることは
新しい服をつくる大切な出発点になります
生地の在庫や時期による状況もあるため
思い出の生地で何かをつくりたいと感じたら
まずは早めにお話を聞かせてください
当時の写真がなくても大丈夫です
覚えている手触りや色の印象からでも
一緒に整理していきます
今ある選択肢の中で
その記憶にどう応えることができるのか
そこから考え始めます
6年前の最初の一着が
これからの特別な日のタキシードにつながっていく
その時間をご一緒できることを楽しみにしています
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